第六話
著者:shauna


「5番、セレナ・・・」

 ゆっくりとした動作で立ち上がるセレナ。
 やや俯き加減なのでその目は見えない。

 「セ・・・・・・セレナ様?」

 痛烈に嫌な予感がする。
 思わず表情を引き攣らせるアリエスの前で、清楚可憐で有名なエルフ姫は宣言する。

 「歌いま〜す!!!!」

 そう言って、普段の美声からは考えられない程の・・・コンサートホールなら客が空き缶投げてくるぐらいの駄目な歌が響く。
 
 「繋いだ旋律ぅ〜〜〜〜!!!抱きしめたち・か・い〜!!!!世界の果てへひびーー〜て!!!」

 どう考えても歌い方と歌詞があってない。
 普段ならやわらかく繊細なメロディラインのはずの曲が、まるで勇者シリーズのオープニング並に拳と熱血で歌うモノだから、ものすごい違和感が炸裂する。


 ちなみに頬は完全に朱色の染まり、既に理性の欠片も垣間見えない。

 「ゲッ!!!」

 愕然とするアリエス。

 なぜなら、眼を閉じ、空いている方の拳を握り締めて歌い続けるセレナの隣に、すでに10本近い空の徳利が整列していたからである。
 多分、ミーティアとかサーラの勧められるがままに飲んで、その後に自主的に飲み始めてしまったのだろう。しかも、彼女の足もとに陳列する酒は半分がエルフ専用のエルフィー酒、もう半分が人間用の東洋酒でそれがさらに悪ノリを加速させている様だった。

 「アリエスさまぁ〜・・・」

 ものすごく嫌な予感がして、アリエスが壊れたブリキのおもちゃのように後ろを振り向く。

 「何で飲んでないんですかぁ〜?」

 トロトロの目でシルフィリアが問いかける。

 「いや・・・ほら・・・飲むとみんなを制御できる人間が居なくなっちゃうから・・・」
 「あれあれ〜?大抵の方がお酒をたしなんでいる席で、飲まないのはマナー違反ではいなんですかぁ〜?ねぇ、ドローアさまぁ?」

 う・・・確かにそんなことをドローアが言っていた気もする。

 ってか絶対言ってた。だって、ドローアが申し訳なさそうに視線を背けてるもん・・・

 「少しぐらい飲まなきゃ駄目ですよ〜ぉ?このスピリトゥスなんていかがですかぁ〜?とってもおいしいですよぉ〜?」
 「いや、それアルコール度数96度ぐらいある酒だから!!!ってか味以前にアルコールの味しかしないから!!普通それは割って飲むモノだから!!!」
 
 まあ、そんなことを言ってもシルフィリアは無理やりにでも飲ませようとしてくるわけで・・・

 「駄目だこりゃ・・・」



 だが―



 「ん?」
 すっとアリエスの目が細まる。

 その視線の先は障子・・・

 なにかはわからないのだが、チラリと見慣れぬ影が横切ったのだ。

 この宴会場には今のところ聖戦士御一行しか居ない。

 もちろん、従業員が酒や食べ物の追加を持って来たのかも知れないが、ここはユフイン・・・従業員も総じて制服はキモノである。

 なのに今通った人影は確実に洋服を着ていた・・・。

 「誰だ・・・」

 すぐにシリアスモードになってアリエスは通った人影に問いかけ、相手が誰なのかを推測する。

 「おや・・・誰かいるんですか?」

 シルフィリアもアリエスを凌辱する手を止めてすぐにその視線の先を追った。
 だが、アリエス自身、本当に目に映ったのは一瞬で、今はその影が宴会場内に写ることは無かった。


 「アリエスさま酔ってるのよぉ〜」

 にへにへと笑いながらミーティアが言う。
 「いや!!!それ君達だから!!!!」
 「大丈夫ですよアリエスさまぁ〜迎酒をすれば酔いなんて簡単に醒めますからぁ〜」
 「醒めない!!!絶対に醒めない!!!!」
 「ささっどうぞ一献。」

 ミーティアが恭しくアリエスに酒の入った盃を渡す。

 「いや・・・だからさ・・・俺は飲まないから・・・」

 アリエスはそう言って核爆弾のスイッチを押さない様にそっと盃を置く。。

 「じゃあ、ドローアは?あなたも飲みなさいよ!!王女命令よ!?」

 その言葉にいままであまりの急展開に呆然としていたドローアが反応した。

 「い・・・いいえ、私は遠慮しときます。医者からも暫くの間酒は控えるようにと言われてますし・・・(嘘)」
 
 この状況を制御できる人間が居なくなったら明日の朝どうなってるかわかったものじゃありませんし(真)

 「大丈夫よ・・・ちょっとぐらい飲んだところで医者にバレやしないってば!!(女医サーラの発言。)」

 「いや!!いろいろ間違ってますからね!!!!ってか今の発言に一つも正解ありませんでしたからね!!!」



 「それに、飲みたくない人に盃持たせた所で、飲むわけないじゃありあませんか・・・」

 相変わらずヤバい眼をしたシルフィリアがそう言うので、当人はもちろんのこと、ドローアまでものすごく不安な感情に襲われた。

 今のこの人が発言するとなんか絶対間違った方向に会話が進んで行くことが目に見えていたのである・・・




 「飲まない男の子に呑ませたいんだったら・・・それは、口移ししかないじゃありませんか〜(断定)」




 うん。ごめんなさい。町がった方向に会話が進むんじゃなくって一言で間違った方向に行くが正解でした。

 「ミーティアさん!!!サーラさん!!!懲らしめてやりなさい!!!」
 「「はい!ご隠居!!!」」

 シルフィリアの言葉にナチス式の敬礼で返して2人は逃げようとするアリエスの両腕を羽交い締めにして捕縛する。

 「この朱色の杯が目に入らぬかぁ〜(シルフィリアです。)」

 シルフィリアはそう言って、高々と手に持った杯を掲げ、アルコール度数96%の酒を口の中に流し込む。

 どうやらもはや、味覚すら麻痺しているらしい。

 そして、すべてを口に含むと、杯を放り投げ、そっと膝立ちしてアリエスに近づく。

 一方のアリエスはもう眼尻に涙を浮かべながらまるで死刑直前の下手人のように体をわなわな震わせていた。

 「ま!!!待って!!!シルフィー!!!こういうことするのは・・・うれしいけど、でも、皆が見てる前ではダメだって!!!・・・しかも、俺、酔うと!!!」

 必死の抵抗を見せるアリエスだが、両手を捕まえているのが女の子のため、本気で振り払うわけにもいかず・・・


 怯えるアリエスを見てシルフィリアは・・・口の端から一筋口内の酒を零しながら、ニヤッと口元を緩ませた。


 そして・・・

 ドローアもドキドキしながら見守る中・・・



 その刑は執行された・・・


 それはもう、ちょっと細かく言ったらvarekai〜バレカイ〜そのものが連載中止に追い込まれるんじゃないかっていう・・・
 
 口移しだけでなくさらに舌まで絡めちゃったりしてるような・・・
 
 見ているドローアは完全に顔を真っ赤にして固まってしまうような・・・

 

 そっと舐めるように唇が話され、シルフィリアが御満悦の溜息を洩らす。

 と同時に、アリエスにも変化が生じた・・・

 「う・・・う・・・」

 え・・・っとドローアは目を丸くする。

 「しくしくしく・・・」
 「ぅえぇっ!!!ちょっ!!!アリエス様!!!何で急に泣き出すの!!!?」
 「なんで・・・俺なんかが・・・」
 
 はい!!?え!!!?一体何があったの!!!?

 「うわわわわわわわわわわわわわ!!!!!」

 大粒の涙を零しながら床に伏せ、泣き喚くアリエス。

 「俺なんて!!!俺なんて!!!!剣術しか能が無くって・・・ルックスも、地位も、全部全部シルフィーの方が上で・・・なのに・・・なのに・・・俺にシルフィーと結婚する権利なんてない!!!!他に釣り合う男を探した方がシルフィーは幸せなんだ!!!!うわああああああ!!!!」


 ・・・あぁ・・・泣き上戸ですか・・・


 「いや、あなた程シルフィリア様に釣り合う人間なんていないと思いますよ?」
 ってかあなた以外にあの人の重過ぎる愛をいろんな意味で我慢し続けられる人なんていないと思いますよ?

  「違う!!!違う!!!全部偶然なんだ!!!それなのに!!!それなのに!!!!」
 ダメだ・・・こりゃ酔いが醒めるまで治りそうにもない。


 「あ・・・あの・・・みなさん。酔いを醒ますために温泉に入ったらどうかなぁ〜って思うんですけど?」

 とりあえずこの核ミサイル製造工場を脱する為にドローアは思いつきでそんなことを言ってみる。

 まあ、正直なところ、その効果はあんまり期待して無かったのだが・・

 「オォ!!!それもそうね!!!!楽しみしていた温泉!!!何回も入らないのは損だわ!!!」

 ミーティアが手を打ったのを皮切りにして、みんながそれに賛同する。

 「入らねば〜!!!」
 「入らねば〜!!!」


 壊れたラジオのように口々に同じ言葉を連呼していく残りのメンバー。

 「そうと決まれば、続きは温泉でするわよ!!!(ミーティア)」
 「おうっ!!!(全員)」
 「ファル!!!アリエス君運んで来て!!!(サーラ)」
 「へ〜い(ファルカス)」
 「おい、ドローア。とりあえず風呂場に酒10本追加な。(アスロック)」

 「いや、だから・・・もう飲むのは止したほうが・・・ってか徳利10本は多すぎるんじゃ・・・」

 「何言ってるのドローア。(セレナ)」
 「一升瓶で・・・に決まってるじゃないですか!!!(シルフィリア)」


 「死ねぇー!!!!!!!!」


 もはやきっと明日の朝には記憶が残ってないだろうから、ドローアも本気で心の底からの声を発言することにした。



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